カテゴリー別アーカイブ: 基本のき
蓋ものの金繕い
産経学園ユーカリが丘校に在籍していた方の作品をご紹介
致します。
海外のもので、蓋ものの金繕いです。
本体の方がバラバラに割れてしまっていました。
質の柔らかい陶器なので、あちこちに欠損があり、接着後に欠損
部分を埋めるのに時間がかかってしまっていました。
完成してみれば華やかな器本来の柄に金泥の仕上げが映えて、素晴ら
しいものになりました。
欠損を埋めるのに時間がかかるとモチベーションの維持が大変です。
この作品もしばらく教室にお持ちにならない期間がありました。
何か急ぐご事情がなければ、そのようにクールダウンの時間があっても
いいと思います。
金繕いは然るべき時に完成するもの、という考え方があります。
かつては依頼者が完成を催促すると修復代金を何倍にも加算して構わ
ないという不文律があったくらいなのです。
2024トクサ刈り取り
トクサの刈り取り時期になりました。
合わせて質問が多くなってきましたので、改めて説明したいと
思います。
まず質問です。
以下の内容で正しいものはどれでしょう?
1.刈り取り最適期は秋
2.先端の枯れた部分を採取する
3.根元15cm程残して採取する
4.色は枯れ色になっていなければならない
5.刈り取り後、すぐビニール袋などで保管する
6.刈り取り後、束ねて吊るして乾燥させる
7.採取した物はすぐに使い切らなくてはならない
お分かりになりましたでしょうか?
少し意地悪な質問になりましたが、実は全て間違いです。
特にご自身でお育てになっている方は正しく理解されて、
より良いコンディションの物をお使い下さい。
毎回の告知で恐縮ですが、拙著「金繕いの本」90ページに
トクサの育て方、使い方について詳しく解説しています。
ご一読下さい。
銀泥 硫化した色
藤那海工房 金繕い教室の生徒さんの作品をご紹介します。
銀泥で仕上げられた欠け+ひびがいい色に硫化したとわざわざ
お持ち下さいました。
銀泥はアクセサリーと同様、空気中の硫黄成分で変色していきます。
それはいきなり黒くなるわけではなく、最初は少し地味な金色である
シャンパンゴールド色になり、その後ピンクゴールド、青紫と変化して
いきます。
最終的に真っ黒になるわけです。
新うるしの場合、途中経過で止めることが出来るので、器の感じと
合わせて選択することが可能です。
特にシャンパンゴールドは粉引・化粧土と呼ばれるベージュ色の釉薬に
合いますし、青紫は染め付けと酷似しています。
問題は色の変化を自然に任せて待つ場合、どのくらいの時間が必要かと
いうことなのですが、この質問にはジョークを交えて「神のみぞ知る」
とお答えしています。
というのもそれぞれのご自宅で環境が違う為、必要な時間が変わってしまう
からなのです。
今まで一番変化の早かった方はご実家が養鶏場(鶏糞が要因と思われる)だと
いう方でした。
お預かりもので返却を急ぐ場合などは方法はありますが、やはり自然に変化
させた方が色が美しいようです。
色の変化を楽しめる銀泥です。途中経過もお楽しみ下さい。
二の字型のひび
私が金繕い(仕上げ)をご依頼頂いたカフェオレボールを
ご紹介致します。
ボール部分にひびが2箇所、高台に複数の欠けがありました。
仕上げとして工夫したのが、紺のラインに差し掛かっている
ところは薫銀泥で、地の乳白色の釉薬の部分は銀泥をわずかに
硫化させたところで色止めを行いました。
問題は縁にあった「二の字型のひび」です。
この不思議な形の欠けは破損した時の衝撃が今ひとつ弱く、欠けに
至らないでひびとなったものです。
決して珍しいものではなく、かなり頻繁に見受けられます。
「問題は」と言ったように、この破損は見た目が良くないのが悩ましい
ところです。
器に何らかの図柄が入っている場合は同様の柄で蒔絵して隠すのが
常套手段ですが、今回のご依頼品はラインが入っているだけなので
いつもの手段は使えません。
苦肉の策ですが、ラインに差し掛かった傷は薫銀泥で蒔絵し、地の
部分の傷は銀泥を少し流下させたところで色止めしました。
つまり二の字の上下で仕上げた金属粉の色が違う訳です。
一応ご依頼主の方の了解は取りましたが、現物を見て頂いて最も目立た
ない作戦としてご理解頂けました。
金繕いの姿勢として器本来の姿を損なわないというのがあるかと思います。
とかく思い切った改変を求めてしまいがちですが、器が日常で使うもので
あれば、若干引き算と感じるくらいの方策が正解なのではないかと考えて
います。
美しいノート
NHK文化センターさいたまアリーナ教室のTさんのノートを
ご紹介致します。
金繕いされている器の記録を取られています。
同じように作業の工程を記録されている方はおられますが、Tさんの
ノートは味わいのあるイラストに着彩されているのが群を抜いて
素敵です。
皆様お忙しいので記録を取るのは大変だと思いますが、途中の手順が
わかりますし、後々似たような破損の場合には参考書になるはずです。
特に作業前の状態を記録しておくと、仕上げ近くなってどのくらい削り
込めばいいのかという時には大変役に立ちます。
それぞれ自分のやり易い方法があるかと思いますので、チャレンジして
みて下さい。
線描きの再現
このゴールデンウィークは片付け三昧の日々を送っておりました。
その中で久しぶりに見た自分の作品です。
欠けとひびが入ったなます皿です。
金泥で仕上げたところに銀泥で元々の染付の柄を再現しています。
この作品を作った頃は老眼って何?と言わんばかりに目が良かったので、
線描きの細い線をきちんと再現しています。
今はちょっと無理かと思いますが、この方法は金繕いした箇所を悪目立ち
させないので、オススメの技法です。
花器の復活
NHK学園市川オープンスクールのYさんの作品をご紹介します。
花器の口縁が欠けてしまったのを金繕いされました。
とても味わいのある釉薬が素敵な陶器の花器です。
口縁がランダムに欠けてしまっていたのを綺麗に埋められて薫銀泥で
仕上げられました。
この薫銀泥が釉薬にとてもマッチしていて違和感のない仕上がりになり
ました。
実はこの花器は金繕いに着手するまでが大変だったのです。
というのもランダムに欠けてしまっていた口縁にカビが発生して
しまっていたのです。
誤解があるのですがカビは漂白剤では退治出来ません。
カビの退治方法については弊ブログの過去の記事をご覧下さい。
beforeの画像を見て頂くとYさんの苦労がしのばれると思います。
改めて素晴らしい完成の姿をお喜び申し上げたいと思います。
カルチャーセンター空席情報2023.4月
2023年4月から受講できるカルチャーセンターの教室をご案内します。
◯空席あり
NHK文化センター千葉:毎月第2火曜日午前中 満席になりました
NHK文化センター柏:毎月第4日曜日 午前・午後
NHK文化センターさいたまアリーナ:毎月第4月曜日 午後
◯随時募集
港北カルチャーセンター:毎月第1土曜日 13:00〜15:00
カルチャークラブ公津の杜:毎月第1月曜日 午前・午後
◯キャンセル待ち
NHK学園市川オープンスクール:毎月第1・第2金曜日 午後
産経学園ユーカリが丘校:毎月第3月曜日 午前・午後
NHK文化センター柏:毎月第3金曜日 午後
新しい生活が始まる4月に金繕いにチャレンジしてみませんか。
空席のある教室でしたらすぐ受講が出来ます。
ご検討をどうぞよろしくお願い致します。
トクサの刈り取り2023
自宅ベランダで育てているトクサの刈り取りを行いました。
このところの暖かさで新芽が出てきた鉢があった上、寒さ
焼けで赤茶色になっていたのが緑色に戻ってきていたからです。
刈り取ったことがある方はご存知かと思いますが、刈り取り直後の
トクサはかなり水分を含んでいます。
ハサミを入れた瞬間、水がほとばしるくらいです。
ですので私は束ねず平に広げて干しています。
刈り取った後の鉢です。
私は稲刈りのように根本から切っています。
というのもある程度の長さを残したとしても、そこから再び伸びる
ことはなく、新しい場所から新芽が出るからです。
刈り取ったものは1週間も干せば道具となります。
(色は作業に関係ありません。枯れ色にならなくても結構です。)
育てている方は今週末にでもチャレンジしてみては如何でしょうか。
馴染んで目立たず
藤那海工房 金繕い教室のKさんの作品をご紹介します。
お抹茶茶碗の縁の欠けです。
紫味のある釉薬が個性的な抹茶茶碗です。
縁が点々と複数箇所欠けてしまっていました。
埋めるのは問題なく作業を進められたのですが、問題は仕上げ
でした。
欠けがかなりの数ありましたので、目立つ色で仕上げると落ち着かない
感じになってしまいます。
Kさんとお話しして最終的に選ばれたのが硫化した銀箔でした。
これが絶妙に釉薬に合って目立たないのです。
Kさんは最適解を選ばれました。
金繕いは使用上の注意のためにも欠損部分を目立たせるという考え方も
ありますが、器の見場を考えると目立たないということも重要になる
場合があります。
ご自分がどうしたいのかを考えて仕上げはお選び下さい。