カテゴリー別アーカイブ: 基本のき
長いひび
NHK文化センター柏教室のMさんの作品をご紹介致します。
大皿の欠けとひびです。
縁の欠けから伸びたひびが長く、仕上げをするのが大変だったかと
思います。
ただ金泥が染付に映えて美しい仕上がりになりましたので、満足されて
いるかと思います。
このところ仕上げが上手くいかないというご相談が増えています。
まずどのように作業しておられるのが実演して頂いて問題点を把握する
ようにしているのですが、大抵は手順に勘違いがあることがほとんど
です。
金繕いはカテゴリーとしては工芸に分類されますが、器によって手順が
異なり、難しい部類に入ると思います。
特に仕上げは目にすることになるので、印象がこれで決まってしまう分、
皆様完成度にこだわられます。
仕上げを行う前には今一度手順を確認してから行われるのをお勧め
致します。
花器の金繕い
私が金繕いを承った花器をご紹介します。
象嵌で繊細な柄を入れたものですが、縁周辺が割れてしまって
いました。
破片を接着後、欠損部分を埋めました。
仕上げは縁に金彩が入っているので、基本的に金泥を使用。
縁下の染付部分のみ薫銀泥を使いました。
その結果、程よく馴染んだのではないでしょうか。
この花器は持ち主の方が作家さんにオーダーして作って貰った
ものとお聞きしております。
唯一無二のものとして完成した姿を気に入って下さっていれば
嬉しいです。
呼び継ぎにチャレンジ
藤那海工房 土曜日クラスのSさんの作品をご紹介します。
飯茶碗の呼び継ぎです。
呼び継ぎとは金繕いの技法の一つで、共継ぎと呼ばれる元々同じ
器の破片を使うのではなく、全く別の器の破片を欠損部に入れる
接着方法を指します。
Sさんの作品の場合、陶器の飯茶碗に敢えて磁器の破片を入れています。
その結果、本体と入れた破片の厚みが随分違いましたので、主に内側
でその差を調整しています。(内側の接合線が太くなる)
金繕いを習っている方々からすると「いつかは呼び継ぎ」というくらい
憧れの手法です。
というのも呼び継ぎを行うには
1.ある程度欠損のある本体
2.欠損部を埋める破片
が必要になるからです。
特に2.の欠損を埋める破片は意匠性も重要になってきますので、より
ハードルが上がります。
やってみたい、とお考えの方は、上記の2点に該当する器集めから
始めてみてはいかがでしょう?
集め方については、教室でご相談にのっております。
銀泥の渋い硫化
藤那海工房 西登戸教室のOさんの作品をご紹介致します。
急須の蓋の欠けを銀泥で仕上げられたのが、いい具合に硫化
したのを拝見致しました。
渋い金色に変化しています。
面白いのが縁の硫化が進んでいて、すでに黒くなっているところ
です。
銀泥はシャンパンゴールド、ピンクゴールド、青紫、黒と変化して
行きますが、その時間経過はご自宅の状況で違います。
今回、Oさんは急須自体の釉薬にマッチしていると現状での色止め
(硫化を極めて遅くし現状の色で止める方法)を行われました。
いずれにしろ変化の様子を時間経過と共にお楽しみ下さい。
表面のテクスチャーに合わせる
港北カルチャーセンターの方の作品をご紹介致します。
蓋物の割れです。
ざらざらとした釉薬が印象的な蓋物です。
本体の方が鳥脚型に割れていたのですが、これを金属粉で目立たせる
のではなく、馴染ませることにチャレンジされました。
ざらざらとした仕上げを敢えて選択したいという方は少なからずおられる
ので、様々な手法でのご提案を用意しています。
それは道具であったり素材であったり、狙いの感じに合わせて選択肢が
あります。
今回ご紹介の作品は色も合わせられたので、一見全くわからない感じに
なりました。
いわゆるピカピカの金属粉ではない仕上げをご要望でしたら、あらかじめ
ご相談下さい。
モーニングカップのひび
私がお預かりして金繕いしたモーニングカップをご紹介します。
ズレが生じていた深刻なひびでした。
ドイツのKPMというブランドのモーニングカップというかなりたっぷり
飲み物が入るものです。
こちらに一部破損があり、ズレも生じているひびが入っていました。
実はお預かりした時点でひびにしっかりと茶渋が入っていました。
通常、深刻なひびの場合には漂白はお勧めしていません。
破損を埋める必要があるので、必然的に金属粉で仕上げが必要になる
からです。
ここで敢えて漂白を選択しました。
というのも以前に表に華やかな絵付けのある湯呑みをお預かりした際、
漂白に成功したことによって絵付けに仕上げを乗せないで済んだから
です。
数ヶ月かけて漂白したところ、ひびの隙間に茶渋がなくなったことで、
ズレが解消しました。
その結果、破損を埋めはしましたが仕上げの金泥は細く仕上げることが
出来ました。
白い器に金の線が1本。
潔さが美しい仕上がりになりました。
このような経験をするとセオリー通りが正解とは限らないと感じます。
臨機応変でその器にとって最適解を探すのも楽しみの一つです。
トクサ情報2024.7
トクサは研草とも書き、ヤスリ代わりに使用する道具です。
金繕いでは陶磁器の釉薬を傷めずに欠損を埋めた部分だけ
研磨出来るので大変便利な道具です。
ただ道具としての販売経路が少なく、出来れば自分で育てて
頂きたいところ。
通常、初夏にポット苗が販売されるのですが、時期を過ぎた今、
販売しているところを見つけました。
販売していたのはホームセンター「コーナン」の市川原木店です。
価格の割に苗が小さいのは残念ですが、買いそびれてしまった方
には朗報かもしれません。
道具として使えない「大トクサ」ではなく、「トクサ」ですので、
お求めになりたい方はお早めに!
蓋ものの金繕い
産経学園ユーカリが丘校に在籍していた方の作品をご紹介
致します。
海外のもので、蓋ものの金繕いです。
本体の方がバラバラに割れてしまっていました。
質の柔らかい陶器なので、あちこちに欠損があり、接着後に欠損
部分を埋めるのに時間がかかってしまっていました。
完成してみれば華やかな器本来の柄に金泥の仕上げが映えて、素晴ら
しいものになりました。
欠損を埋めるのに時間がかかるとモチベーションの維持が大変です。
この作品もしばらく教室にお持ちにならない期間がありました。
何か急ぐご事情がなければ、そのようにクールダウンの時間があっても
いいと思います。
金繕いは然るべき時に完成するもの、という考え方があります。
かつては依頼者が完成を催促すると修復代金を何倍にも加算して構わ
ないという不文律があったくらいなのです。
2024トクサ刈り取り
トクサの刈り取り時期になりました。
合わせて質問が多くなってきましたので、改めて説明したいと
思います。
まず質問です。
以下の内容で正しいものはどれでしょう?
1.刈り取り最適期は秋
2.先端の枯れた部分を採取する
3.根元15cm程残して採取する
4.色は枯れ色になっていなければならない
5.刈り取り後、すぐビニール袋などで保管する
6.刈り取り後、束ねて吊るして乾燥させる
7.採取した物はすぐに使い切らなくてはならない
お分かりになりましたでしょうか?
少し意地悪な質問になりましたが、実は全て間違いです。
特にご自身でお育てになっている方は正しく理解されて、
より良いコンディションの物をお使い下さい。
毎回の告知で恐縮ですが、拙著「金繕いの本」90ページに
トクサの育て方、使い方について詳しく解説しています。
ご一読下さい。
銀泥 硫化した色
藤那海工房 金繕い教室の生徒さんの作品をご紹介します。
銀泥で仕上げられた欠け+ひびがいい色に硫化したとわざわざ
お持ち下さいました。
銀泥はアクセサリーと同様、空気中の硫黄成分で変色していきます。
それはいきなり黒くなるわけではなく、最初は少し地味な金色である
シャンパンゴールド色になり、その後ピンクゴールド、青紫と変化して
いきます。
最終的に真っ黒になるわけです。
新うるしの場合、途中経過で止めることが出来るので、器の感じと
合わせて選択することが可能です。
特にシャンパンゴールドは粉引・化粧土と呼ばれるベージュ色の釉薬に
合いますし、青紫は染め付けと酷似しています。
問題は色の変化を自然に任せて待つ場合、どのくらいの時間が必要かと
いうことなのですが、この質問にはジョークを交えて「神のみぞ知る」
とお答えしています。
というのもそれぞれのご自宅で環境が違う為、必要な時間が変わってしまう
からなのです。
今まで一番変化の早かった方はご実家が養鶏場(鶏糞が要因と思われる)だと
いう方でした。
お預かりもので返却を急ぐ場合などは方法はありますが、やはり自然に変化
させた方が色が美しいようです。
色の変化を楽しめる銀泥です。途中経過もお楽しみ下さい。