月別アーカイブ: 2025年3月
それらしい形
NHK文化センター千葉教室の方の作品をご紹介致します。
お猪口の欠けです。
ざっくりとした釉薬に金泥が映えて美しい仕上げになりました。
欠けの金繕いの場合、欠損を埋めていって最後に欠けの形に絞り
込むように削っていきます。
その際、皆様悩まれるのが「どこまで削るのか?」ということだと
思います。
回答としては「欠けの形通りに」となるのですが、意外にこれが
難しいのです。
「削るのが怖い」というお話はよく聞きますが、これは失敗を
恐るあまりの感情だと思います。
これを緩和するには金繕いを開始する前に破損した状態を画像に
撮っておくのが堅実な方法だと思います。
それがない場合は感覚を頼りに削っていくしかないのですが、根拠は
経験になるかと思います。
どなたでも欠けた形の記憶があると思います。
それを辿って探りながら削るのが最善の方法かと考えています。
代用 粉鎮
金繕いの仕上げで使う金属粉は紙で包まれています。
いわゆる薬方包みに近い包み方なので、開けておくには
包みを押さえる道具が必要になります。
漆芸材料店では「粉鎮」といって書道の文鎮の小形版の
ような品物の取り扱いがありますが、それなりのお値段が
しますので、何か別の用途のものを代用されてもいいと思います。
ほとんどの方が箸置きを流用されていますが、海外旅行で残ったコイン
を使っている方もおられます。
避けたいのはカッターなどの削りカスが出る可能性がある刃物、静電気
が立つプラスチック製のケースです。
せっかくなら作業するテンションが上がる物を見つけられるといいの
ではないでしょうか。
月と水面
金繕いの教室で金箔貼りの練習としてハマグリに金箔を
貼って頂くカリキュラムを用意しています。
金箔貼りからステップアップして貝絵として絵を描かれる方は
少なくありません。
産経学園ユーカリが丘教室のTさんもその一人です。
表の傷を月と水面に見立てたセンスも素晴らしいのですが、燻銀箔を
駆使して描かれた月と水面の絵も独創的で大変素晴らしい作品です。
次回作もすでに検討されているので、楽しみに完成を待っている
ところです。
貝絵専門の教室ではありませんが、画題の選び方から構成の仕方など
完成までの講習も行っています。
絵心がないと敬遠されず、新しい扉を開くつもりでチャレンジして
頂ければ嬉しいです。
藤那海工房10周年
自宅を藤那海工房と称して金繕いの教室を始めて、この4月で
10年になります。
講師を始めた頃、自宅で教室を開けたらなぁと細やかな夢を
持っていましたが、それが叶って10年になりました。
最初は1クラスだけだったのが、徐々にご希望の方が増えて、
現在コンスタントに3クラスが稼働。
新うるしのクラスに本漆のクラスも追加されています。
だからというわけではありませんが、教室で使用しているスツール
のチェアパッドをリニューアルしました。
この物自体はIKEAの安価品ですが、原型は「スツール60」と
いう名作椅子です。
フィンランドの著名建築家 アルヴァ・アアルトが1933年にデザイン
した物です。
元々は3本脚ですが、IKEA品は4本脚になっています。
座面の角が丸くなった模倣品が広く出回っているほど、スタッキング
も出来る完成されたデザインです。
自宅で教室を開いている方を「サロネーゼ」というそうですが、優雅さ
より、ひたすら真面目に金繕いに取り組んで頂く教室です。
金繕いの他、さまざまな工芸の教室も行っておりますので、ご縁があり
ましたら是非お越し下さい。
真似る
NHK文化センターさいたまアリーナ教室のIさんの作品を
ご紹介致します。
小皿の欠けです。
小皿の縁が小さく欠けていたのを埋められて、仕上げは新うるしの
色漆で行った好例です。
ちょうどお皿の縁廻りに水玉の柄が入っていたので、それに似た
形、色で仕上げられました。
少々色の違いはありますが、違和感がないのがご覧頂けると思います。
ご存知のように金相場が上がり続けていることで、金繕いで使用する
金泥の価格も大幅に上がっています。
そこで色漆での仕上げを行う需要が高まっています。
しかしこれは一見簡単なようで難しいのです。
金属粉のように欠損を埋めた最後に色漆を使えばいいのではないの
です。
あらかじめ作業する内容が決まっておりますので、チャレンジする
前にご相談ください。
トクサの刈り取り2025
自宅ベランダで育てているトクサを刈り取りました。
トクサはスギナと同じトクサ科で、金繕いでは欠損を埋めた部分の
研磨に使用します。
紙ヤスリではなくトクサを使う理由は陶磁器の表面を痛めないことに
あります。
トクサが研磨できるのは表面に蓄積されたケイ酸があるからなのですが、
これが陶磁器の表面の釉薬と同じものなので削れないのです。
春に新芽が出たのを冬の寒気にあたって結晶化が進んだ今時期が刈り時
です。
今は空気が乾燥しているので刈り取った時には水分が滴るような状態
でもしっかり乾燥出来ます。
よく質問があるのが生育時に既に枯れてしまった先端が道具として
使えるかというものです。
答えは「否」です。
既に朽ちてしまっているので、道具としては全く使えません。
わざわざ枯れたところを採取してきたとおっしゃる方がおられるように
乾燥の手間が省けると考える方がありますが、無駄骨となりますので
ご注意下さい。
角鉢の割れ
産経学園ユーカリが丘校のSさんの作品をご紹介致します。
作家物の大きな角鉢の割れです。
30cm角くらいの大きな角鉢です。
立ち上がりの1辺の一部が割れていました。
立ち上がりがある四角形の器にはありがちなのですが、割れた時に
変形してしまっており、破片がピッタリ収まらなくなっていました。
それを中庸を取る感じで接着し、隙間が出来てしまったところは
埋めて納めて頂きました。
仕上げは元々弁柄色の釉薬に陶芸用の金箔を貼り、ダイナミックな
波濤の絵が描かれていましたので、それと違和感がないように
仕上げて頂きました。
具体的には内側コーナー部分は弁柄漆での仕上げとし、表の割れの
接合線は金泥仕上げとされました。
作家さんオリジナルのダイナミックな絵付けを損なうことなく
仕上げが出来たと思います。
臨機応変に手段を変化させるのも金繕いの醍醐味という好例と
なりました。
畠山美術館 琳派から近代洋画へ
改築工事で休館していた畠山美術館の開館記念展の第2弾
「琳派から近代洋画へ」を拝見して来ました。
今回の展覧会には畠山美術館が誇る琳派の歴史を彩る名品が展示
されますが、中でも私が拝見したかったのが本阿弥光悦の赤楽
茶碗 銘「雪峯」です。
なだれるように掛けられた白釉を山嶺に振る積もる白雪に、火割れ
を雪解けの渓流になぞらえて光悦自ら命名したと伝えられています。
最大幅1.2cm、深さ5mmの深い金繕いが印象的ですが、歴史的に
見て金で仕上げられた最初の器と言われています。
今回の展示は360度拝見できたので分かったのですが、大きな溝が
ある右側面もかなり複雑に金繕いされていたのです。
満身創痍の器ですが、エポックメーキングな作品としての堂々たる
品格は素晴らしいものがあります。
会期末が3月16日日曜日と迫っていますが、ご都合をつけてご覧に
なるのをお勧めします。
入館は完全予約制、ミュージアムショップも含めて支払いはキャッシュ
レスですのでご注意下さい。
(ロッカーの小銭100円がなかったのですが、受付で貸して下さる
という徹底振りです。)
2025年4月から始められる講座
2025年4月から始められるカルチャーセンターの講座を
ご案内致します。
・港北カルチャーセンター 毎月第1土曜日 13:00~15:00
・産経学園ユーカリが丘 毎月第3月曜日 10:15~12:15/13~15
・NHK文化センターさいたま 毎月第4月 13~15/15:30~17:30
・NHK文化センター千葉 毎月第4水曜日 13:30~15:30
・NHK文化センター柏 毎月第4日曜日 13:00~15:00
◯キャンセル待ち承り中
・カルチャープラザ公津の杜 毎月第1月曜日 10:30~12:30
・NHK学園市川オープンスクール 毎月第1金 13~/15:30~
・JEUGIA八千代緑が丘 毎月第2金曜日 10:00~12:00
・NHK文化センター千葉 毎月第2火曜日 10:00~/13:00~
・NHK学園市川オープンスクール 毎月第2金 15:30~
・NHK文化センター柏 毎月第3金曜日 13:00~15:00
・NHK文化センター千葉 毎月第4木曜日 10:00~/13:00~
新しいことを始めるにふさわしい春です。
日本文化に触れられる金繕いを始めてみませんか?