月別アーカイブ: 2021年5月
ひびを目立たなくする
港北カルチャーセンターのMさんの作品をご紹介致します。
コーヒーカップの欠けとひびの金繕いです。
特にひびが目立たなく完成しましたので、ご覧下さい。
亀裂が入った状態でも軽症のものを「にゅう」と言います。
にゅうは亀裂の中に汚れがなければ、全く目立たなく直る場合があります。
Mさんのコーヒーカップもひび止めをしたところ、一部に弁柄漆が入っただけで
ほとんど目立たなくなりました。
たまたま弁柄漆が入った部分が縁の柄が入ったところだったので、色漆で着色し
その部分を隠してしまいました。
実際、ひびは表の鳥の絵に差し掛かっているのですが、弁柄漆が入らなければ
あえて仕上げで金・銀蒔絵はしなくても構わないとお話ししています。
特に今回の作品のように具象の柄がある場合は避ける傾向にあります。
ちなみに内側は止めた痕跡がはっきりわかることから、しっかり金泥で仕上げを
なさっておられます。
傷を爪で触って引っかかりがない場合は「にゅう」と判定し、目立たなくさせる
ために漂白をお勧めしています。
一般的に硬質の磁器は見えなくなることが多いのですが、素地に吸水性のある
陶器では吸水しないように「目止め」という下準備をして頂いてもシミが生じる
場合があります。
この場合は目立たなくはなりませんので、金・銀泥での仕上げをお勧め致します。
器ごとに手順が違うのが金繕いの魅力でもあります。
Mさんの作品のように臨機応変、セオリーにこだわらず対応して頂きたいと
思います。
トクサの状態
今年、春が来る前にトクサを刈り取られたと思います。
乾燥後のトクサの状態について質問が多かったのが、例年と様子が
違うというものです。
画像の左側が理想の状態です。
乾燥させても、しっかりと円筒形が維持されています。
ご質問が多かったのが右側のように萎んでしまった状態になってしまった
が、どうしてなのかという内容です。
なぜこの状態になるかというとトクサの壁が薄くて、乾燥させると萎んで
しまうからなのです。
近年エルニーニョ現象が続き酷暑が厳しかったせいか、トクサの生育も
影響を受けています。
壁がしっかり育たないうちに刈り取り時期を迎えてしまったのでしょう。
萎んでいる状態でも道具として使うことは可能です。
既に乾燥された方はそのままお使いになっても差し支えありません。
今後の対策としては寒さに当たってケイ酸の結晶化が進んでも硬くならない
場合は刈り取らず、さらに育てるのをお勧めします。
越年しているうちにしっかりしたトクサになるはずです。
ちなみにトクサは道具としてお使いになる場合は、20~30分水に浸して下さい。
トクサ自体が柔らかくなり、冬場の乾燥した時期でも粉砕してしまうことは
ありません。
また水が緩衝材になり、より磨いている面がツルツルになりますし、目詰まりも
防ぐことが出来ます。
月と霞
私個人の金繕い教室・藤那海工房の木曜クラスのMさんの作品を
ご紹介します。
湯ざましの割れです。
常滑焼の湯ざましがかなりバラバラに割れてしまっていました。
熱いお湯が入る物なので、安全のため和紙で補強してあります。
その上を金箔で「月と霞」を蒔絵されました。
蒔絵に当たっては月の大きさを慎重にシュミレーションし、霞もしっかり
練習した上で行って頂きました。
しかし何より月と霞を蒔絵しようというMさんのアイディアの勝利と
言えると思います。
ここまで蒔絵が出来たのは、あまり洗浄する必要がない湯ざましと
いう特性もあります。
どのようなケースでも可能な方法ではありませんが、返却された時の
持ち主の方が驚き喜ばれるであろうことは確実です。