月別アーカイブ: 2020年10月

前向きに隠す

NHK文化センター柏教室のAさんの作品をご紹介します。
Aさんは面白い工夫をして下さるので、度々ご紹介させて頂いて
おりますが、今回は問題を逆手に取った工夫をされています。


真ん中のウサギの柄のところにひびが入っていました。
そのひびに入り込んだ汚れが漂白してもなかなか落ちないので、仕上げの
銀泥を砂子散らし風に散らして隠されました。
銀泥はいずれ硫化して染付けの柄のように見える予定です。

骨董の場合、長い間かけて汚れが入っているので、簡単には落ちない場合
があります。
もちろん時間をかけて漂白するのも良いかと思いますが、Aさんのように
前向きな仕上げでカバーするというのも良い方法だと思います。

もう1点。
割れを接着されたものです。
赤系の釉薬に金泥が映えて美しい作品になりました。
中央に写っている大きな欠損もワンポイントになっています。
「金繕い」マジックですね。


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保土ヶ谷宿

私の出身地は神奈川県横浜市です。
その中でも東海道五十三次の宿場町であった「保土ヶ谷」という
横浜市の中央にある古い土地の出身です。

横浜市というと住みたい街の上位にノミネートされるなど、いいイメージが
あるかと思いますが、それは主に北部の新興住宅地を指しています。

保土ヶ谷は元・宿場町と言っても観光資源になるようなものは残っていません。
本陣跡に門扉、旅籠屋だった金子家(脇本陣というのは誤り)が残っている
程度でしょうか。
「北向き地蔵」(どんなに違う向きに変えても北向きに戻る)とか「政子の
井戸」(北条政子が化粧直しに使った井戸)などありますが、とても地味です。

毎年1月2日〜3日に行われる箱根駅伝の第2区、難所として有名な権太坂の
少し東京寄りと言った方がわかりやすいかもしれません。

保土ヶ谷駅近くにある「金沢横町道標」です。
金沢・浦賀往還への出入り口にあたり、この道標が設置されたそうです。
ここまでコンディションが良いものは珍しいとのことで、現在でも大切に保存
されています。

同じく駅近くにある蕎麦屋の「桑名屋」さんです。
宿場町としての町おこしに熱心な当代が江戸時代のイメージで建てられました。
ちょっとタイムスリップ感覚を味わえます。

おしゃれな新興住宅には敵いませんが、尾道ばりの山坂ありの保土ヶ谷が
やっぱり好きなようです。


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芸術的な線

先般、盆栽鉢の漆繕いをご紹介させて頂いたNHK文化センター柏教室の
Hさんの作品をご紹介致します。


割れの接着です。
接合線が複雑な形をしていて、ちょっとしたアートに見えます。
人間が考えて出来る形ではないのが面白いところです。

銀泥で仕上げられていますので、いずれ硫化して染付けの柄に馴染んで
いきます。

ちなみにこの柄は「十草紋様」と言います。
道具として使っている物の柄とはご縁があるものです。


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鉢映り

NHK文化センター柏教室のHさんの作品をご紹介致します。
盆栽鉢の漆繕いです。


黒系の釉薬の盆栽鉢ににゅうが数本入っていました。
幸い深刻な状態ではなかったので、ひび止め自体を黒で行い、目立たなく
して頂きました。

鉢の内側にその痕跡が残っていますが、土を入れれば見えなくなってしまうので
問題ありません。

出雲大社ヤブツバキを植えられたところです。
漆繕いした部分が正面にあるのですが、全くわかりません。

ここで「鉢映り」という言葉を教えて頂きました。
盆栽の世界では木と鉢の相性を重要視されるそうで、その様子に関して鉢映り
という表現が出てきます。

Hさんの作品の場合、濃い赤の花をつける出雲大社ヤブツバキと黒い釉薬の
鉢は「鉢映り」が暗いとなるようです。
ダークな色味同士を合わせると引き立たて合わないということだと解釈しました。

色彩学では「美度」という数値を算出します。
色相、トーンが乖離しているほど美度が高くなります。
恐らく美度が高ければ高いほど鉢映りがよくなるのではないかと推察しています。
いい勉強をさせて頂きました。


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