かな書をしていて、どう頑張っても濃く墨色が出ず、悩んでいました。
その結果、墨を変えようと決心し、購入に出かけました。
ある書道具店で勧められたのが、もう廃業してしまった墨屋さんのもの
でした。
廃業してしまったという言葉だけが耳に残っている状態で購入したのですが、
実はこれが「幻の墨」とまで言われる和田栄寿堂の墨だったのです。
榊莫山先生の「墨」という著書で、日本画壇の巨匠ー川合玉堂、小林古径、
横山大観などがこぞってオリジナルの墨を注文したとあります。
莫山先生の著書が書かれた昭和56年の段階で、当代の方が後継に困っていると
悩まれていました。
墨作りの現場は真っ黒になって、灯した火を絶やさないように少しずつ煤を
取るという過酷なものです。
身内といえども後継を頼むのは難しいでしょう。
実際に使ってみて少し擦るだけで濃い色が得られ、細線は鋭く、枯れた線は
味わいがあり、墨の違いだけでこんなにも変わるものかと驚きました。
今までの墨とはすっかり勝手が違ってしまったので、使いこなすには時間が
かかりそうですが、貴重な墨に敬意を表しつつ頑張りたいと思います。