月別アーカイブ: 2019年12月
THE BOOK vol.4 ブックアート展
友人のアーティスト・大古瀬和美さんが出品したブックアート展が
12月2日から13日の会期で行われていました。
会期終了間近で伺ったので、レポートが遅くなってしまいました。
8名のアーティストが「本」をテーマに出品しておられます。
それぞれの感性で作品が作られているのですが、不思議と調和している
のが、この展覧会の面白いところです。
大古瀬さんの作品です。
タイトルは「未然のことば」
言葉になる手前の状態を表現されたそうです。
具体的には固形の墨を使って描かれているのですが、これがそう容易い
ことではないと書道のご経験のある方ならお分かり頂けると思います。
それを自由自在に操って、タイトル通り言葉になる前が描かれている
のです。
その不思議な世界に魅せられてきました。
大古瀬さんの次のチャレンジも楽しみにしています。
人柄が出る
NHK文化センター柏教室のMさんの作品をご紹介致します。
Mさんはじっくり作業を進めるのがお好きで、例えやり直しになっても
根気よく作業して下さいます。
今回仕上げをなさった器は、Mさんのお人柄が表れているように思います。
大らかな筆致で野菜が描かれた小鉢です。
ひびが入ったところを金泥で仕上げられていますが、その線が野菜を描いている
筆致と合った思い切りの良い仕上げです。
見ている方も楽しくなるような仕上げです。
鳥脚に割れた破片を接着した小皿です。
形が意外に複雑なところ、接着が少しずれてしまっていました。
その調整に時間がかかりましたが、納得行くまで作業された結果、こちらも
思い切りのいい仕上げになりました。
金繕いは元々の器は他の方が制作したものの破損部分を修復するという、ある意味
コラボレーションのような関係です。
例え同じ器だったとしても、持ち主として金繕いを施されることによって唯一の
ものになるわけです。
作業の経過でより愛着が湧き、仕上げで自分のものになるという過程を
Mさんの作品で実感しました。
七宝焼の金繕い
七宝焼の器を愛用されている方は多いと思います。
破損させてしまった場合には陶磁器の金繕いと同じように
修復が可能です。
取り組んで下さったNHK文化センター千葉教室のIさんの作品を
ご紹介致します。
お皿の角の七宝釉が欠けてしまっていました。
金属の特有の下準備をして頂いた上で、陶磁器と同じ手順で金繕い
なさっています。
仕上げはプラチナ箔を使い、全体のイメージに合わせられました。
ほんの小さな欠けですが、本体が金属の七宝焼は錆が出てしまう心配が
あります。
破損はそのままにせず、なるべく早く金繕いに着手することをお勧め致します。
その際には必ず下準備について、ご確認下さい。
Iさんは陶磁器の金繕いも完成されています。
この調子で次々仕上げに挑んで頂けることを楽しみにしています。
トクサの準備
トクサを使うには20〜30分水に浸す必要があります。
講座にお出でになる場合、教室にお入りになってから水に浸して
いると時間が勿体ないと思われるのではないでしょうか。
NHK文化センター千葉教室のMさんがとてもいい方法でトクサを
お持ちになっていたので、ご紹介致します。
小さなタッパーウエアにびしょびしょに濡らした化粧用コットンに
包んでトクサ1節1節を入れて来られているのです。
ご自宅からお持ちになって教室に入る頃にはちょうど使い頃になっている
そうです。
私が教室で乾いたままのトクサを仕方なく使うことが多く、生徒さんの
中には水に浸さなくてもいいと覚えてしまった方もおられます。
しかし冬の乾燥した時期はすぐにバラバラに砕けてしまって、いくらも
使えないことがお分かりになるかと思います。
加えて磨いた面に引っかきキズがついてしまうことがあり、仕上げの状態に
影響が出ます。
乾燥したまま使うのは決していいことではないのです。
ぜひMさんの方法を参考にして頂き、教室でもしっかり水で柔らかくなった
トクサをお使い下さい。
輪花の窯キズ
NHK文化センター千葉教室のMさんの作品をご紹介致します。
白のマット釉の輪花の鉢に窯キズが生じていました。
窯キズが生じていたのは輪花の窪んだところでした。
実際、キズがあったのは右下の器だったのですが、仕上げの色を検討する
過程で破損のない器に試しに仕上げられたそうです。
揃いで並べてみると、まるで元からのデザインだったかのようです。
何枚かある揃いの器の1枚が破損してしまった場合、他のものをどうするか
悩まれるところだと思います。
もちろん1枚だけ金繕いするのもいいですが、Mさんのように前向きな
姿勢で他の器に手を入れるのもいいアイディアだと思います。
窯キズはその独特の形状から通常の仕上げとは違う方法を取ります。
着手前にご相談下さい。
絵になる割れ方
産経学園ユーカリが丘教室のTさんの作品をご紹介致します。
小さいお猪口の割れの接着です。
度々お話しているように、器の割れ方というのは人間の考えることを
上回ってくることがあります。
Tさんのお猪口もその例で、左右対象だったり山型だったりと、とても
不思議に感じます。
Tさんは割れたままを尊重して仕上げられていますが、このような面白さを
生かして頂くのが金繕いの本道だと思います。
弁当箱 届く
先日お願いした坂本さん作の弁当箱が届きました。
上段が赤で下段が銀のツートンです。
中の仕切りは水平垂直と斜めの2種類。
おまけで頂いた箸箱です。
箸がねじ込み式で2分割されています。
秀逸なのが箱で、本体と蓋にマグネットが仕掛けてあり、閉まった状態では
蓋が抜けていかないようになっています。
弁当箱として頂きましたが、お重として使うつもりです。
まずはお正月のお節料理を入れて、そのあとは菓子鉢などにも使えそうです。
漆器を傷めないコツは仕舞い込まず、時々使って水分を補給すること。
いろいろ活躍してもらう予定です。
ハンドルの補強
産経学園ユーカリが丘教室のNさんの作品をご紹介致します。
カップのハンドルの補強です。
いくつかの破片に分解してしまったハンドルを接着し、竹で補強してあります。
補強を元々のハンドルに馴染ませるように成形した後、プラチナ泥で仕上げ
られました。
補強の加工も仕上げの仕方も大変丁寧に、かつ完璧になさっているので
違和感が全くないかと思います。
ハンドル全体を仕上げてあるので、元からこの意匠だったかのように見える
のが、この手法のいいところです。
竹の加工からして確かに大変ではありますが、丈夫さと美しさを兼ね備えた
手法だと思っております。
ハンドルが割れてしまうと諦めてしまう方が多いのですが、このように自然に
金繕いされていればチャレンジする甲斐もあるかと思います。
このような器をお持ちの方は是非ご相談下さい。
二度と取れない
ある教室で生徒さんが持って来られたお抹茶茶碗に二度と取れないシミが
出来ていました。
お茶碗自体の作家の方が著名な方であるのは勿論ですが、このシミの原因に
なった金繕いをなさった方も著名な方だということです。
表には金繕いされた金の線が残っていたのですが、内側の金の線は茶筅で掻き
落とされたのか、すっかりなくなってしまっていました。
残ったのが、このシミです。
恐らくひびにテレピン油などで希釈した生漆を染み込ませた結果だと思います。
素地、釉薬共、軟らかい質の陶器だったので、広がってしまったのでしょう。
以前に比べ金繕い、金継ぎをなさる方がとても多くなりました。
いずれの方も試行錯誤されているのが陶器の染み込みだと思われます。
様々な対処方法が提唱されています。
私共では「目止め」と言い、米の研ぎ汁を使う方法をお勧めしています。
どのような方法を取るにしても、ひびの中に入った漆類は二度と除去することは
出来ません。
画像のようにシミとして広がってしまったら、仕上げで隠すしか手段はなくなって
しまいます。
広がってシミとなったものを「味わいとして」という言葉で隠していいもので
しょうか。
持ち主の方の気持ちになれば、とても言えるものではありません。
お持ちになられたお茶碗を拝見して、お教えするにしても、ご依頼を受ける
にしても真摯に取り組もうという気持ちを強くしました。
陶器大皿の割れ
産経学園ユーカリが丘教室のYさんの作品をご紹介致します。
陶器で大きさも厚みもあるお皿の接着です。
接着力の高い「のりうるし」で接着して欠損を埋め、銀泥で仕上げられました。
欠損がところどころあり、埋めるのが難しかったと思いますが、傷なりに
仕上げられた線が景色となっています。
のりうるしにするか否かは迷われるところだと思います。
Yさんのお皿のように破片が厚みも重さもある場合はリスクが高いので、必然的に
のりうるしを選択することになります。
その他、急須やカップ類の把手など機能があるもの、破片の個数が多いもの、
形が複雑なものなども該当します。
器を持つ時、どのようにするかも勘案事項になります。
どちらにするか迷われる場合には教室でご相談下さい。
※NHK文化センター ユーカリが丘教室は、産経学園に変わりました。