月別アーカイブ: 2019年2月
大鉢の割れ
藤那海工房 西登戸教室のOさんの作品をご紹介致します。
直径45cmほどある大きな鉢の割れです。
こちらは入れ子になる小さな鉢がいくつかあるものなのだそうです。
その小さい鉢が変なふうにはまって割れたので、通常の割れ方とは
異なります。
内側から圧力がかかって、押し割れたという感じですね。
ですので接着も難しかったですし、欠損を埋めるのも難しかった難作です。
一番悩まれているのが下地の埋まり具合に問題があって、仕上げが凸凹に
なってしまったことです。
割れ方の経緯を考えると、これは致し方ないことかと思います。
よく仕上げの問題としてご相談があるのがOさん同様、凸凹があるという
ものです。
もちろん私にご確認頂いた上で仕上げに挑まれている訳ですが、下地の段階で
完璧に埋まっているかどうか判断が難しい局面があります。
それでまず1回仕上げて様子を見てみましょうとお願いする場合が多々あります。
金属粉で仕上げると、光沢が乱反射して凸凹がよりはっきりします。
どこに問題があるか把握したところで、ポイントポイントで修正していく
方が効率的です。
いくらでもやり直しが効くところが金繕いのいいところでもあります。
凸凹にめげずに少しずつ完璧な仕上げを目指して頂ければと考えています。
ひびの仕上げ
NHK学園市川オープンスクールのIさんの作品をご紹介致します。
それぞれひびの入った器を仕上げられました。
急須のひびです。
蓋に金彩が入っているので、ひびの仕上げにも違和感がありません。
こちらはコーヒーカップのひびです。
シンプルな白い器に金線が入りましたが、元からそういうデザインだった
かのように見えます。
急須もカップも何度も仕上げしなおされたそうで、その努力が滲み出て
いるかと思います。
単純な線だからこそ技量が見えてしまうからです。
その甲斐あって元からのデザインのような仕上げになっていると思います。
こういう仕上げこそ金繕いの王道ですね。
ところで急須の仕上げの場合よくご質問があるのが、内側まで仕上げを
行うのかということです。
内側はご本人以外は見ることはありませんので、欠損さえ埋まっていれば
敢えて仕上げなくてもいいとお話ししています。
あとはご本人がどうお考えになるかです。
もちろん仕上げて頂いて構いません。
南部鉄瓶
先日の盛岡・光原社購入の菜箸に続いて、盛岡で入手したもの
シリーズです。
かねてより鉄瓶を購入したいと思っていたのですが、骨董感の
あるものではなく、モダンな意匠のものはないかと考えていました。
偶然、エッセイストの平松洋子さんの南部鉄瓶を雑誌で見かけました。
釜定の新珠という形です。
表面は「肌」といい、あられという凸凹があるタイプではありません。
これだ!と思い盛岡旅行の際に購入しましたが、4ヶ月待ちでした。
現在では1年半待ちとなり、価格も1万円以上上がっているようです。
南部鉄瓶というと使い方が難しいというイメージが強いと思いますが、
お湯を沸かした時に余熱でしっかり乾かせば、問題ありません。
最近、表面の錆が気になっていたのですが、お茶の出がらしの葉を鉄瓶が
熱いうちに布に包んで塗布すると、タンニンの膜が出来るとかで、チャレンジ
しています。
何と言ってもお茶が美味しいのが楽しみの一番ですが、重いのが難点です。
いつまで日常で使えるかなと思いつつ、毎日お湯を沸かしています。
形はモダンですが、蓋のつまみが虫食いという意匠になっています。
こんなところに出自の茶道の釜の片鱗が残っているのです。
顔真卿
現在、東京国立博物館で行われている「顔真卿−王羲之を超えた名筆」
を見てきました。
顔真卿(709〜785)は唐時代の文人です。
伝統を継承しながら「顔法」と称される特異な筆法を創出しました。
中国では書聖・王羲之、初唐の三大家ではなく、目指すなら顔真卿の書
であると言われているそうです。
今回の展覧会の目玉は「祭姪文稿」という非業の死を遂げた若い甥を供養
した文章の草稿で、悲痛と義憤に満ちた肉筆です。
最初の数行こそ冷静な筆致を保っていますが、途中は墨で塗り潰したり、
加筆したりと、心の揺らぐ様が現れているようです。
最後の数行は字も行も乱れ、涙が溢れているのではないかと思わせます。
展覧会では書聖・王羲之、初唐の三大家の書も展示されているので、これら
との比較ができます。
何を持って顔真卿の書が評価されているのか、考えてみるのも良いでしょう。
私は祭姪文稿に現れているように、感情まで書に表現されているからではない
かと感じました。
テクニック的に言うと隷書、篆書の書法を楷書に持ち込み、王羲之以来の
書法を一転させたことにあるようです。
右利きの人の右上がりになる傾向を抑えて正面を向いた字姿にすること、
横画を細く、縦画を太くすることで字間を詰めても美しいので、私たちに
馴染み深い明朝体の元となりました。
会期は今月24日日曜日までです。
平日の今日の午後は、祭姪文稿の前で行列が出来、拝見までに30分並びました。
歩きながら見るように誘導されるので、拝見出来るのも、ほんの数秒です。
かなりテレビなどで紹介されているので、会期末はさらなる混雑が想像され
ます。
金・土曜日の開館が長い曜日を狙った方がいいかもしれません。
見間違えられる
NHK文化センター ユーカリが丘教室のHさんの作品をご紹介致します。
馬の目皿の欠けの金繕いです。
骨董がお好きな方であれば馬の目皿がどんなものか、よくご存知だと
思います。
石皿の一種で、職人が描いた渦巻き文様が馬の目のように見えることから
「馬の目皿」と呼ばれています。
石皿とは日常雑器で、あぜ道のような不安定なところでもひっくり
返らない重くしっかりしたお皿を指します。
ほとんどが無地なのですが、稀に馬の目のような絵付けがされています。
それが希少なので珍重されていますが、職人のざっくりした絵付けが鄙びた
感じがするのも魅力の一つです。
Hさんがお求めになったお皿は、かなり縁がかけてしまっていました。
それを一つ一つ埋められて、銀泥で仕上げられました。
当初Hさんは焦げ茶色の新うるしで仕上げられるご意向でしたが、私が強く
銀泥での仕上げをお勧め致しました。
というのは色合わせした金繕いは一段低く見られることと、色合いがチープに
見える可能性が高かったからです。
欠けの数が多いだけに、失敗は大きなダメージになります。
銀泥は仕上げた直後は白いので浮いた感じがしましたが、薬品で硫化を
促進し、黒化されました。
Hさんから面白い後日談をお聞きしました。
ボロボロに欠けた状態をご存知のご友人が完成した状態を見て、
「新しいのを買ったの?」とおっしゃったそうです。
それほど変化を遂げていたということなのですが、Hさんとしては満足度が
さらに上がる出来事だったようです。
強く銀泥をお勧めした私としても、とても嬉しいお話でした。
ルーズリーフ マニア
以前のブログでもご紹介していますが、メモ魔を自認する私は
ルーズリーフを愛用しています。
画像の左から金繕いの手順を記録しているもの、各教室の講座内容の記録、
かな書の1字1字について注意事項を記録しているもの、一番右は花活けの
お稽古内容の記録です。
プライベートのものを含めれば、まだまだあります。
こだわりはA5版に統一していることでしょうか。
最近お気に入りなのが、右の2つ。
テフレーヌという商品で、真ん中辺りのリングがない分、中心寄りの記入が
しやすくなっています。
ルーズリーフのいいところは、ページの足し引きが簡単なことにつきます。
見出しで分類も出来ます。
金繕いの教室に通われている方には、レジメとメモが同居するよう工夫されて
いる方がおられます。
A4版のリングファイルにレジメとメモをファイリングされている方、レジメを
縮小コピーしてB5版にし、ルーズリーフでメモを取られている方など。
いずれも1箇所に情報が集約して、とてもいい方法だと思います。
技術は習っても一度で記憶出来るものではありません。
ご自分に向いた探しやすい方法で整理されるのをオススメ致します。
ハート型
NHK文化センター柏教室のAさんの作品をご紹介致します。
マグカップの把手付け根のひびです。
マグカップの把手の破損というと把手がバラバラに割れるのことが多いの
ですが、Aさんのマグカップのように下の付け根だけひびが入るケースも
少なからずあります。
中に飲み物が入った状態のカップの重さを想定しても、荷重がかかるのは
把手上部だけです。
ですので下の付け根にひびが入っただけなら、ひび止めすれば使用上は
問題ありません。
Aさんのマグカップの場合、周囲が少々削げていました。
しかし形が絵付けで入っているツユクサのハート型に酷似していて違和感が
ないというのがAさんの見立てです。
確かに元々の絵柄と共通項があれば、取り立てて何かプラスしなくても
良いかと思います。
とても鋭い見立てと感じました。
何かに見える、というのは蒔絵のヒントになります。
皆様、破損をキズと思わず、何かに見立ててご覧になりませんか?