月別アーカイブ: 2018年9月
メンディングテープは使えない
以前のブログにも書いていますが、メンディングテープは金繕いには
適さないテープです。
パッケージには
貼るとテープが見えなくなる
テープの上から文字が書ける
コピーをとっても影が出ない
とあります。
用途を見ると
図面の補修・補強、切り貼り修正、エッジの補強に
グラフ・資料のコピー、第二原図のつなぎ合わせに
等々とあります。
つまりメンディングテープは平滑な紙の補修用に作られたテープなのです。
一方陶磁器の修復においてテープは曲面に貼ることになりますが、メンディング
テープは張り感が強いので、馴染みにくいです。
一般的に価格の影響かメンディングテープは、セロハンテープの高級バージョン
というイメージがあるようです。
しかし金繕いには適しませんので、お持ちになるならセロハンテープで
お願いします。
漆繕い
よみうりカルチャーセンター大宮教室のOさんの作品をご紹介致します。
大鉢が割れてしまったのを接着されました。
画像の器、右側の十時に入った線が接着の線です。
ご覧頂いて分かる通り、金属粉での仕上げではありません。
青色の漆で仕上げられています。
このように漆の色で仕上げることを「漆繕い」と言います。
現代では「金繕い」「金継ぎ」がポピュラーになっていますが、陶磁器の修復は
漆の色で仕上げる方法が原点でした。
Oさんの作品の場合、青色が器に入っている元々の柄の色とそっくりで、完成した
状態は元からこの意匠だったように見えます。
漆繕いの成功例と言えるでしょう。
漆繕いは金属粉を使わないので、ローコストと思われる方もおられると思います。
ただお茶道具では「格落ち」と言われてしまうケースもありますので、安易に
飛びつかない方が良いかと思います。
チューブ入れ
漆のチューブは立てて保管する方が良いのですが、数が増えてくると
入れ物を考えなければならないと思います。
藤那海工房 木曜クラスのTさんが素敵な入れ物に入れておられたので、
ご紹介致します。
Tさんは漆器の修復を始められたので、必然的に色数が増えました。
この箱は紅茶の箱だったそうで、仕切りはご自分で作られました。
高さが丁度いいのですが、木製なので高級な画材のようです。
口金や蓋の内部についた新うるしを拭ってから保管するのをお勧めして
いますが、拭わずにチューブを横倒しにすると新うるしが固まって蓋が
開かなくなります。
さらに溢れ出たのをそのままにしていると、しっかり閉まっていないので
中身がどんどん硬化していきます。
溢れ出た新うるしの処置の仕方は教室でご説明致しますので、ご質問下さい。
何より口金、蓋を綺麗に拭って、立てて保管するのが一番です。
Tさんのように使う時に選びやすく、仕舞っても美しい入れ物を探してみて
下さい。
マグカップの把手 補強
NHK文化センター ユーカリが丘教室のMさんの作品をご紹介致します。
マグカップの把手が割れていたのを接着し、補強されました。
補強は把手の内側に竹を入れる方法で行っています。
竹の加工や把手の形に馴染ませるのに時間がかかりますが、Mさんの作品のように
把手の表面に意匠があった場合、損なうことがないのがいいところです。
Mさんが工夫されたのが、把手の表面に出ている割れの線をもう1本描き足して、
元々のデザインのようにされたことです。
内側の金泥の仕上げと続き、さらに馴染みが良くなったと思います。
把手表面の薄紫色と金泥がとても綺麗です。
この美しさは補強の状態を根気よく埋められたMさんの作業の成果です。
こちらはご友人のものだそうで、返却されます。
さりげなく直された様に苦労は伺いしれないと思いますが、きっと喜ばれると
思います。
ひびの器 洗浄のタイミング
金繕いを始める際、直したい器は綺麗に洗って頂くのをお勧めしています。
この内、ひびの入った器は特に注意が必要です。
狭い隙間に入った水分は抜けにくいので、金繕いする1週間前には洗っておく
必要があります。
最近ひび止めをしたにも関わらず、後でひびが進行してしまう原理もわかって
きました。
その一因に直前の洗浄があると言えます。
気がついたら教室の日が迫っていたというのはよくある話ですが、せっかく
完成したと思っていた器の破損が再び進行していたというのは悲し過ぎます。
適切な時期に洗浄し、油分をつけないように保管して下さい。
繊細な縁
NHK文化センター ユーカリが丘教室のNさんの作品をご紹介致します。
繊細な縁を持つ湯さましです。
繊細な縁なので、どうしても欠けやすかったのだと思います。
点々と何箇所か欠けてしまっていました。
薄い厚みの欠けを埋めるのは、とても難しかったのですが、根気よく作業を
続けられ、ついに完成しました。
形、仕上げ共に大変綺麗に出来ています。
こちらは合わせて完成された小鉢です。
割れの線が元の柄と呼応して、一つの意匠になっています。
どちらの作品も丁寧に作業されるNさんならではの完成度だと思います。
それが顕著に現れたのが湯さましです。
時間がかかっても丁寧に作業することによって絶対の満足感が得られると
考えています。
皆様、この満足感に浸ってみたくはありませんか?
ショーメ 時空を超える宝飾芸術の世界
9月17日まで東京の三菱一号館美術館で行われている「ショーメ 時空を
超える宝飾芸術の世界」展を見に行ってきました。
見に行った理由は宝飾に興味があるというより、一流のものを見て目を
肥すというところにあります。
また作品制作のヒントを得られればという狙いもありました。
宝飾というとパターン化したもののイメージが強くありました。
上の画像はそのイメージのものです。
実際展示されていた多くに自然のものからデザインされたものがあり、これは
非常に参考になりました。
石の使い分けなども大いにヒントになる要素です。
会期終了が迫っていますが、東京駅から徒歩5分と便利なところにあるので、
何かついでがあれば立ち寄りをお勧め致します。
会場内は少々寒いのですがストールの貸し出しがあるので、体が冷えるのを
好まない方は借りられると良いと思います。
珍しい破損
NHK文化センター 柏教室のKさんの作品をご紹介致します。
珍しい破損があったお茶碗です。
金泥で仕上げた線の途中に円が描かれているのが、お分かりになるかと
思います。
これはデザインではなくて、この形通りに欠損があったそうです。
恐らくもう少し衝撃が大きければ表面が円形に薄く削げていた状態に
なったものだと思います。
お茶碗自体に円形の柄が入っているので、それに合わせたようになって
いるのが面白いと思います。
こちらはよくある円盤型の破損ですが、破片あり、ひびあり、欠損部分ありと
変わった形の仕上げになりました。
モダンな瑠璃釉のマグカップなので、金泥の仕上げが映えて面白い仕上がりに
なっていると思います。
柏教室は大きく欠損した器の修復に挑んでいる方が多いのですが、Kさんも
迫力の金繕いに挑戦されています。
こちらの完成も楽しみにしています。