月別アーカイブ: 2018年9月
線描きで加飾
NHK文化センター 柏教室のMさんの作品をご紹介致します。
把手のついた片口の割れを接着し、さらに加飾されています。
通常、染付けの柄の上を仕上げが通過してしまう場合は、乗った部分を
銀泥に変えて仕上げて頂くことが多いです。
しかしMさんの作品は金泥の仕上げをそのままに、途切れてしまった桜の
花びらの輪郭線を銀泥でなぞられました。
このように線描きにして頂くと、見た目の印象が軽やかになります。
さらに工夫されているのが、近くにある5弁の桜も一部輪郭を銀泥を入れ
られて、つながりを作っておられるところです。
この一工夫が器全体としてのまとまりになっていると思います。
Mさん同様、工芸を趣味としておられるお嬢様から「お母さん天才!」と
褒め言葉が出たそうですが、私としても嬉しいお話として伺いました。
把手がついている形から、食卓で色々なものを注ぐ器として再活躍させて
頂けることでしょう。
青いバケツ
今春、学生時代の恩師T先生の訃報に接しました。
T先生はデザインした作品がニューヨーク近代美術館のパーマネント
コレクションに収蔵されるなど実績もある素晴らしい先生なのですが、
学生の間では厳しい先生として知られていました。
私など卒業制作の指導教官にT先生が決まった時は「どうしよう。」と
うろたえてしまった口です。
しかし実際指導して頂くと制作の本筋は全てOKを下さり、検討が薄い
部分についてはご自分のネットワークを惜しげも無く使ってレベルアップを
計って下さいました。
思い出深いのは卒業の謝恩会の2次会でくつろいだ雰囲気の中、今後の
自分の目標として「日本の家庭から青いバケツをなくしたい。」と
おっしゃっていたことです。
当時、日本は大量生産大量消費の時代で、家庭にあるバケツといえば青と
相場が決まっていました。
T先生のお考えになっていたことは、まだまだインテリアという言葉が日本人に
とって馴染みがない時代に、生活する空間にデザインという感覚を根付かせたい
ということだったのだと思います。
それを青いバケツと象徴的におっしゃられたのでしょう。
T先生がお亡くなりになった年齢から計算して、私が学生だった時の先生の
ご年齢が今の私と同じくらいだとわかりました。
私はT先生のように大局的な視点を持てているだろうかと省みると、まだまだ
幼稚だと思わざるを得ません。
どうやら恩師はいつまでも恩師のようです。
堂々たる仕上げ
NHK文化センター ユーカリが丘教室のIさんの作品をご紹介
致します。
益子焼を代表する濱田庄司の縁戚の方制作の湯呑みです。
かなり大ぶりな湯のみなのですが、これが割れてしまっていました。
接着後、欠損を埋め、仕上げして下さったのですが、湯のみの作行きに
合わせて太い線を描かれました。
Iさんはポーセリンアートを長く学ばれているので、糸のように細い線を
難なく描かれる方です。
そのテクニックがあるので、これだけ太い線を描いていてもブレがありません。
堂々たる仕上げに圧倒されるくらいです。
このブログでも度々、仕上げは細い線が正解ではないと書いていますが、
Iさんの作品はそれを証明して下さいました。
原先生の草木染め講座
今日は原一菜先生の草木染め講座に助手として参加してきました。
画像は10年程前に受講した時に染めたものです。
アカネ、玉ねぎ、栗などを素材としています。
原先生の草木染めは同時媒染という方法で、一度に染めと媒染を
行ってしまう合理的な考え方です。
植物の自然の力を引き出して、無理な媒染はしないというスタンスに
とても共感しています。
今年、藍の生育に失敗して、他の方法でも染められるようになりたい
と思ったのが今回の参加理由でした。
いろいろ実験して生藍染めにプラスすることで染められる色を増やして
みたいと思っています。
拭き漆大会 第2回目
先月から行っている、よみうりカルチャーセンター大宮教室での
拭き漆大会の第2回目です。
参加されたSさんの作品を撮影させて頂きました。
ケヤキの茶托です。
無塗装だったもので水シミが出来ているものすらあったのですが、
見事拭き漆で蘇りました。
2回目ではありますが色味が気に入られたので、これで終了とされる
そうです。
Sさんはこの他、日常で使っているものも拭き漆されたのですが、こちらも
漆の色が入っただけで高級感が増していました。
そんな風に漆に親しんで頂ければ大会の目標は達せられたと思っています。
ちなみにマンゴー(ウルシ科)ですらカブレるSさんを含めて、参加した方は
全員かぶれていません。
日常生活を送っている方に「漆はかぶれるもの」であってはならないと考えて
います。
板皿の窯キズ
NHK文化センター 柏教室のKさんの作品をご紹介致します。
作家さんものの板皿の窯キズを金繕いされました。
一辺が30cm超の大型の焼締のお皿です。
表面に大きな亀裂と欠けがありました。
立ち上がりの四隅にも亀裂が入っています。
板皿と呼称しましたが正確にはムクではなく、中は空洞になっていて箱が
うつ伏せになったような形です。
そのため四隅に無理がかかり、亀裂が入ったものと思われます。
拙著にも作例がありますように窯キズは独特な方法で金繕いしていきます。
溝の幅によっても手段が変わりますので、着手前に必ずご相談下さい。
また窯キズ独特のセオリーがありますので、それをご理解の上、方針を
お決めになった方が良いと思います。
Kさんの作品は金泥が焼締に映え、さらに器の迫力が増したようです。
飾っておいても使っても楽しめるものになったと思います。
これは誰でも簡単に得られるものではなく、Kさんがコツコツと丁寧に
作業された結果なのです。
あまりにも素敵なので、何とか窯キズのある器を入手したくなって
しまう方が多数現れそうです。
トクサ復活法
今年の夏の異例の暑さでトクサの元気がないという方が多いのでは
ないでしょうか?
敬愛するピラティスのMidori先生は園芸もお好きということで、トクサの
復活方法を教えて下さいました。
地植えでも鉢植えでも一度土から掘り上げます。
土が散ってしまわないようにポリポットなどに入れます。
バケツにポリポットが浸るくらいの水を入れて、苗を浸します。
画像にある苗はMidori先生のご自宅庭に植えられていたものですが、栄養が
少なかったのか細い芽がたくさん出ていました。
それが掘り上げて水に浸したところ、新芽は立派な太さのものが出ています。
もう少し根が育ったところで鉢植えする予定ですが、土は培養土に黒土を
足すと良いそうです。
黒土は水を保持しますので、水が大好きなトクサには良い環境になるの
です。
もちろん私が失敗した「ベランダ用の土」(ココナッツファイバー含む)は
論外です。
もし全然新芽が出ないなどとお悩みの方は、この方法で根を育てるのが良い
のではないかと思います。
根がダメになっていなければ復活するそうです。
復活したら寒くならないうちに土に植え、水やりを怠らないようにすれば
大丈夫です。
急須の注ぎ口
NHK文化センター 柏教室のIさんの作品をご紹介致します。
急須の注ぎ口が割れて、先端が紛失していました。
紛失してしまった部分は別素材で作られました。
新たに作られた部分は思わず「本当に綺麗!」と口をついて出る程の完成度
の高さです。
これだけ大きく欠損してしまった場合、残った部分から推測しながら作って
いくしかありません。
Iさんは既に水切れを確認されていたのですが、これが気持ちのいい切れ
具合だったそうです。
このことは推測しながら作った部分の正確さを示していると思います。
仕上げは銀泥でなさっていますが、本体が銀色の光彩があるので、とても
合っています。
いずれ銀が硫化しても、馴染んで良い感じになると思います。
こちらはお預かりものなので、返却されます。
きっと持ち主の方は見た目良し、使い勝手良しの完成度に満足されるに
違いありません。
東京中央郵便局 KITTE
先般「ショーメ展」を見に行った際、立ち寄ったのがKITTEです。
ちょうど10年前に建て替え問題が起きたのを記憶されている方も
多いと思います。
結局全館保存は叶わず、外観の一部だけが保存されました。
日本のモダン建築として海外からの評価も高かったのですが、単なる四角い箱
にしか見えないという方もおられたのも事実です。
ヨーロッパでモダン建築が現れた時、同じように批判されたのですから仕方
ないかもしれません。
現在のファサードの一部だけの保存は中途半端という評価もわかります。
しかし建て替え前はグレーに沈んでいた外観が綺麗に整えられ、静謐な意匠が
はっきりわかるようになって、本当に美しい構成だと認識出来ます。
保存が出来ず消えていった数多の建築を考えると、外観だけでも残されて
良かったと思います。
銀杏の抹茶茶碗
藤那海工房 金繕い教室のTさんの作品をご紹介致します。
かなり複雑に割れ、ひびの入ったお抹茶茶碗です。
あまりに痛々しい状態だったので、当初は銀杏を蒔絵して隠すことも
検討されましたが、まずは傷通りに仕上げをして頂きました。
その結果、淡いベージュの地色に金泥が馴染んだので、傷が目立たなく
なったのです。
そこでグリーンの葉の上にかかった部分だけ、色漆で染めるように塗って
頂きました。
実際は画像よりしっかり緑色がわかるので、より金泥の仕上げが目立たなく
なっています。
最近、傷通りに仕上げをするのではなく加飾する金繕いをなさる方が
増えてきています。
しかし安易に加飾に走るのではなく、じっくり器と向き合って、何がBEST
なのか見極めることが必要だとTさんの作品は教えてくれました。