月別アーカイブ: 2018年5月
後から出てくる
現在、金繕いを依頼されている板皿ですが、仕上げの段階に
なってひびが見えてきました。
かなり慎重にチェックして作業を始めたのですが、後になって
見つけてしまいました。
これは珍しいことではありません。
原一菜先生は「器からの自己申告」と表現されます。
具体的に言えば先に直した部分の漆に影響されて、元々問題があった
部分が明確になるのです。
気合を入れ直して、鋭意金繕い中です。
漂白 するか否か
金繕いを始める器は、綺麗にすることが基本です。
この作業には漂白も含まれます。
骨董などは経年変化で「味わいがついている」とお考えになる
方もおられます。
上の画像の鉢は、2013年に京都に出かけた際に購入したものです。
形が好みで購入したのですが、釉薬がペパーミントグリーンで、
少々鮮やかすぎるかなと思っていました。
それが5年使っているうちに貫入に色が入って落ち着いた色になり
ました。
俗に言う「育てた」という感じですね。
このような感じですと漂白するのは惜しい感じになるのもわかります。
しかし漆類は油分に弱いので、金繕いの際には汚れを落としておくのが
基本になるのです。
もし即席に味わいを戻したいようであれば、方法があります。
教室でご相談下さい。
桃太郎
セブンカルチャークラブ成田教室のAさんが、岡山で購入
された桃太郎の土人形を持ってきて下さいました。
金箔を貼ったハマグリ貝の貝合わせにぴったりです。
通常、豆雛をオススメしているのですが、小さいものなら
何でも合いそうです。
これは「金」マジックではないかと思いますが、これも良い
のではという物がありましたら、是非ご紹介下さい。
プラチナ泥の仕上げ
藤那海工房 西登戸教室のOさんの作品をご紹介致します。
ひびをプラチナ泥で仕上げをしたカップです。
Oさんとしては、もう少し細い線で仕上げたかったそうなのですが、
画像で客観的に見てみると、カップのデザインといいバランスなの
ではないでしょうか?
線の描き方も安定していて、いい線が描けていると思います。
シルバー色というと「銀」ですが、硫化して色が変わってしまうのが
合わない器もあります。
Oさんのカップは繊細な薄手の白のマット釉で、こちらには銀の硫化色
は合わないと判断されました。
そこで仕上げに使われたのが「プラチナ泥」(白金泥)です。
プラチナは銀と比較すると青味があり、若干暗い色をしています。
金の価格が上がったことで差が縮まりましたが、確実に金より
高価であることには変わりがありません。
ただ大切に使えば、かなりの量が直せますので、損をした感じには
ならないかと思います。
一般的に銀色というと「錫」を使う方が多いと思います。
プラチナ泥から比べたら、かなりの安価で気兼ねなく使えるとは
思います。
ただ錫は耐薬品性が弱いこととチープさは否めないので、オススメ
してはおりません。
親孝行
藤那海工房 西登戸教室のNさんの作品をご紹介致します。
欠けと割れのお皿を仕上げられました。
欠けは形が綺麗に取られていますし、下の割れの線は、お皿の大きさに
対して程よい太さです。
何より筆の勢いがあって心地よさを感じます。
2つとも、ご実家のお皿だそうで帰省の際に返却される予定です。
ご実家の器を直される方は多いのですが、程よいリラックスと緊張感が
あって、経験を積むのには最適だと思います。
完成すれば何よりの親孝行になりますし、金繕いで会話が弾むのも嬉しい
ことです。
Nさんは作業の工程をじっくり考えて進められる方ですが、仕上げに関しては
引き続き、この勢いある仕上げでお願いしたいと思っています。
薄く塗る
セブンカルチャークラブ成田教室のAさんの作品をご紹介
致します。
たくさん仕上げてきて下さいました。
いずれも大変綺麗な仕上がりなのですが、初心者のAさんがこれほど
までに綺麗な仕上げが出来たのには理由があります。
それは普段の塗り重ねの段階から塗り方がとても薄く塗られている
ことなのです。
習慣化された薄く塗る感覚が仕上げの際にも発揮されて、必然的に薄く
塗ることが出来るようになっておられたのです。
これは講座の初回からお願いしていることなのですが、大抵の方が
仕上げになると「金泥がしっかり着くような気がして」と厚塗り
される傾向にあります。
私もお願いしている立場にありながらAさんのご様子を拝見して、やはり
と確信を深めました。
ぜひ薄く塗って、その仕上がりの美しさを実感してみて下さい。
欠け未満の仕上げ
NHK文化センター ユーカリが丘教室のTさんの作品を
ご紹介致します。
先日のご紹介の続きになります。
欠けに至らずUFOのような不思議な形でヒビに止まっている
破損の仕上げに悩まれる方が少なくありません。
大抵の方は、ヒビの入った範囲を大きく欠けとして仕上げられます。
Tさんの場合は、欠損なりに最小限に仕上げられました。
金繕いの仕上げとしては、これで十分です。
さらにとお考えの場合は、ここから発想されると良いと思います。
鯛牙
本漆の仕上げに丸粉を使う場合、鯛牙を使用しています。
先日、鯛の頭を入手する機会がありましたので、顎の骨ごと牙を
取り出してみました。
上下左右で各2本、計8本あります。
この鯛自体は1kg程度の重さなので、上の画像の道具のような
大きさはありません。
ちなみに鯛は天然でないと、牙はありません。
天然の鯛は貝を砕いて食べたりしているので牙が発達しますが、
養殖の鯛は柔らかい餌を食べているので牙は必要ないからです。
道具として鯛牙の代用とされるのは、めのうやガラス棒などが
あります。
私の個人的な感覚ですが、硬さと柔らかさがうまくマッチングして
いるという点では鯛牙に勝るものはないようです。
魚のイシモチの浮き袋から取り出される接着剤「ニベ」など、日本人が
生活の中から見つけ出した物には感嘆させられます。
下地用の筆 選び方
原一菜先生の教室では下地用の筆は天然毛なら何でも良いと
説明があると思います。
その選択に悩まれて方が多いようなので、解説したいと思います。
まず最初に教材としてお渡ししている筆の良さについて知って頂く
必要があります。
決して高価な筆ではありませんが、穂先は豚毛です。
豚毛は新うるしの粘り気に対応出来る腰の強さがあります。
細い線を描くことからベタ面の塗りまで出来る細さは他にありません。
ただ販売しているのが櫻井釣漁具店(東京・神田)くらいしかないのが
問題です。
では画材店で手に入りやすい筆の中から選び方をご説明します。
まず筆の分類を理解する必要があります。
第1は使う画材によって分けられているということです。
油絵、日本画、デザイン(アクリル絵具含む)が大まかな分類です。
第2は穂先の毛質です。
大きく分けると獣毛の天然毛とナイロンなどの人工毛ですが、原先生の
指定が天然毛なので人工毛は除外します。
獣毛は先の豚の他、テン(最上級がコリンスキー)、羊、馬、玉(猫)、
リス等々ありますが、このうち柔らかい質の羊と玉毛は下地筆としては
除外していいでしょう。
次に形です。
ファン、フィルバートなど特殊な形は必要ありません。
下地としては丸筆とか細筆と呼ばれるものが適切です。
実験してみたのが下の画像にあるものです。
左から豚毛、真ん中も豚毛、右が版下用(テン毛)です。
テン毛の面相筆です。
豚毛の2本は油絵用の筆です。
こちらは細い線は描けませんが、腰が強いので広い面を塗るとか
割れの断面にざっと塗るなどの作業はしやすいです。
版下用の筆は細い線も描けますし、面も塗りやすいです。
穂先が短いので後で説明する面相筆より取り回しがしやすい感じが
あります。
ただ置いている画材店が少ないかと思われます。
最後にポピュラーな面相筆ですが、線もそこそこ、面もそこそこ
塗れます。
大抵の画材店ならば取り扱いがあります。
手に入れやすさも合わせて考えると、一番手頃かもしれません。
以上のレポートはあくまでも私の所見です。
何より筆に何を求めるのか明確にし、ご自分の感覚に合うものを
探されるのが良いと思いますので、色々購入し試してみて下さい。
実験した筆はいずれも1,000円以下で買えるリーズナブルなもの
ばかりです。
実は私はかなり色々試しています。
結局ダメで、ただ保管してある筆がどれだけあるか…
ちょっと見せられないくらいです。