月別アーカイブ: 2018年2月
ガラスの金繕い 桜
NHK文化センター千葉教室のHさんの作品をご紹介致します。
ガラスの絵付けのお仕事をなさっていて、5弁の桜の焼成の段階で
ひびが入ってしまった花器を修復されました。
ひびが斜めに入っていた為、断面が見える面積が広く、際立って
しまいました。
そこでHさんはひびの部分を桜の幹に見立てて銀で仕上げをなさい
ました。
秀逸なのが蒔き下漆を黒になさったことです。
これはいずれ銀泥が硫化して黒になることを見越しての計画なの
ですが、硫化前の現状で見ると手前の銀と裏面が見えている奥とで
まるで遠近法を使ったようになっています。
今は銀泥が白いのですが、これが硫化してくると、また違った景色に
なるのが楽しみです。
最近、本漆(シランカップリング剤という化学物質の入ったガラス用
漆を使用)でガラスの修復をされる方が出てきましたが、本漆の場合、
裏面から本漆のこげ茶(生漆の色)が見えてしまいます。
これを味わいと解釈しておられるようです。
Hさんの作品の場合、元々桜の絵付けをされていたこともありますが、
ひびを意匠として見立てて幹として作られていますので、アートと
して大変高い完成度になっています。
ガラス修復の究極の姿として皆様に見て頂きたいと思います。
真綿の購入先
金繕いの道具として使われる真綿ですが、入手先について話題に
なりましたので、ご説明したいと思います。
かつて真綿は防寒着として使われていて、ご自宅に保管してあったと
いう方が少なくありませんでした。
しかし現在ではそのような習慣もなくなり、入手先が難しくなって
います。
私が購入しているのは、こちらです。
手芸用品のユザワヤで購入しています。
ただこの1袋で使用分20個以上出来てしまうので、個人の方が
購入するには多すぎると思います。
実はAmazonで検索すると、意外に真綿は出てきます。
ただ同様に量が多いので、オススメは「播与漆行」さんです。
価格からしてある程度小分けの量と思われます。
また漆芸材料を扱っている東急ハンズでも小分けサイズが置いて
あることがあります。
常に店頭に並んでいるとは限りませんので、確認の上お出かけ
下さい。
私の教室の方でしたら上の画像のような初回の教材に入れているのと
同じものを販売しています。
ところで誤解している方が多いのですが、真綿は木綿ではなく絹です。
このあたりの説明は以前のブログで掲載しているので、そちらを
ご覧下さい。
トクサ どこで切る?
トクサ収穫の適期なので、トクサに関する質問が増えています。
トクサをどこで切るか質問があったので、ブログでもご説明
致します。
では選択肢です。
A.先端で切る
特に枯れているところを選んで収穫する。
B.途中で切る
次の成長を考え、途中で切る。
C. 根元で切る
春には別のところから新芽が出るので、根元から切る
正解は C の根元から切るです。
A.先端、特に枯れているところは既に朽ちているので、収穫しても
道具としては使用出来ません。
またB.途中で切っても、そこから先の成長はしませんので、残す
意味がありません。
上の画像のように春になると切ったところ以外から新芽が出ます。
収穫した後は、広げて干すのがよいようです。
束ねたり、花器に挿してしまうとカビてしまいます。
干すのは1週間ほどで結構です。
色は枯れ色にならなくても構いません。
拙著をお持ちの方は90ページをご覧下さい。
入手方法や道具への仕立て方など詳しく解説してあります。
プラモデル用塗料ビン
筆洗い用に薄め液を別のビンに分けて下さいとお願いしています。
以前にもご紹介していますが、プラモデル用塗料ビンが便利なので
再度ご紹介致します。
GSIクレオス ホビー部のスペアボトル(SB223)です。
内容量は40ml、定価 ¥162。
本来はプラモデル製作でオリジナルで作った塗料を保管するための
スペアボトルです。
アマゾンでも販売していますが、ヨドバシカメラの通販ですと定価より
安くなるようです。
便利なのが下の画像で写っているように、キャップに中栓がついている
ところです。
薄め液の元々のビンが空になったところで再利用する手もあるのですが、
中栓が開け閉めしているうちに破れやすいのが難点です。
それがこのボトルだと一体になっているので、キャップを開けるだけで
いいのです。
ところでガラスビンがいいのですか?とよく質問されるのですが、
プラスチックだと溶けてしまうものがあるので、ガラスがよろしいかと
思います。
また筆をある程度の時間浸けておきたい場合にも、ガラスの方が安定感
があります。
もちろんプラモデル店でも取り扱いがあります。
使ってみたい方はお探し下さい。
今右衛門の色鍋島
横浜・そごう美術館で行われている「今右衛門の色鍋島」展に
行ってきました。
色鍋島は佐賀・鍋島藩窯が生み出した最高級色絵磁器として
発祥し、今右衛門窯は現在14代目に至っています。
当代の吹き墨技法はさておき、歴代の作品の精緻を極めた美しさと品格は
日本最高峰と言えます。
今回の展示では小品ではありますが、その過去の名品が多数展示されて
います。
その中には金繕いされた器が相当数含まれていますので、最高峰の器の
金繕いとはどのようなものなのか見て頂く機会にもなるかと思います。
会場の最後には阪口恵子氏による今右衛門のテーブルコーディネートが
展示されていました。
テーブルコーディネートがお好きな方には参考になるのではないでしょうか。
会期は2月18日(日)までです。
ご興味のある方はお早めに。
第1回 漆工房時蔵展
以前ご紹介しました坂本鐡司さんが所属している時蔵工房の
展覧会がありましたので、拝見しに出かけました。
まずは坂本さんの作品です。
様々な塗りの技法を施したものを鏡板などに配置した箪笥です。
見ているだけで楽しくなります。
木枝・真竹・竹根を薄切りにしたものを盆底に貼ってあります。
斬新なアイディアです。
私も頂戴した弁当箱と箸です。
今回の弁当箱は胎が草籠なので、とても軽いです。
その他気になった作品をご紹介します。
第44回鎌倉彫創作作品展入選作品です。
幾つかの色で塗り重ねてあるので、研ぎの加減で思わぬ色が
出るそうです。
90歳代の女性の作品です。
とても丁寧な作業をされていることに感嘆しました。
こちらもご高齢の方の作品です。
驚きなのが手前の箱です。
内側の刳りを作るための鉋を自作されたとか。
素晴らしいです。
伊勢型紙で文様を入れた銘々皿です。
和とモダンさが同居した感じです。
私もこのような作品を作ってみたいと思いました。
時蔵工房は鎌倉彫りに限らず自由に制作出来るそうで、出展されている
作品も器あり、楽器あり、パネルありとバリエーション豊かです。
その上、プロとして活動されている方もおられるので、会自体の
クオリティーも高いです。
技法的にも面白いものがありましたので、今後の制作の参考に
させて頂きます。
最後に時蔵工房代表の岡英夫先生の図録の挨拶文で漆工芸の魅力が
書かれてある部分を抜粋してご紹介します。
漆工芸に魅せられる理由が語られています。
漆塗による多様な表現手法には限りがなく、制作には大変な手間と
多くの時間を要します。
しかし漆塗にはその苦労を遥かに超える魅力と奥深いものがあり
多くの人の心をひきつけます。
岡先生のおっしゃる通り漆塗は作り手を反映します。
今後も精進したいと思います。
銀泥で仕上げる
港北カルチャーセンターのKさんの作品をご紹介致します。
大きな欠けを銀泥で仕上げられました。
まだ仕上げたばかりで真綿で磨いていない状態ですが、均質に
蒔下漆が塗られているので、完成度の高い仕上がりになるのが
わかります。
ご本人にお許しを頂いたので解説すると、この仕上げは2回目に
なります。
1回目の仕上げは手順を間違えておられて失敗になってしまいました。
何を間違えたかというと銀泥の2度蒔きの仕方です。
2回目に銀泥をのせる時は改めて弁柄漆を塗らなくていいのを塗って
しまわれたために、先にのせた銀泥に弁柄漆が吸われてしまいました。
これはよく起きる間違いです。
沈み込み易い銀泥の為に2度蒔きはお勧めしたいので、なさる前に
手順をノートやレジメで再確認して下さい。
頻繁に行わない作業ほど記憶は当てにはなりません。
彫刻刀は使えるか?
彫刻刀を使ってもいいですか?というご質問を頂きました。
以前、彫刻刀を使う工芸を習っておられたそうで、その時の物を
流用出来ないかということでした。
作業したい場所に適切な形状の彫刻刀が選択できるのであれば、
使っても構いません。
もっと言えばあまり切れすぎない刃の方が器を痛めないようです。
ただ彫刻刀には致命的な問題があります。
それは切れ味が落ちてきた時に研がなければならないということです。
刃の形に凹みがある簡易式の砥石もありますが、元の切れ味にまで
研ぎ上げるのは難しいところがあります。
そもそも彫刻刀を使える場面では、それほど鋭い切れ味は必要とされ
ません。
それで研ぎが必要となると、道具としては適切とは言えないかも
しれません。
以前使っていた物の流用ではなく、本当に金繕いに向いている道具を
考えられた方がいいのではないでしょうか?