横浜山手西洋館の中で最大規模のベーリック•ホールが4月に
リニューアルオープンしました。
それを見学してきましたので、レポートしたいと思います。
リニューアルの大きなポイントは、2階「令息寝室」壁の修復です。
この壁は、日本では珍しいフレスコ技法(砂と石灰を混ぜて作ったモルタルで
壁を塗って、その上に水だけで溶いた顔料で絵を描く方法)によって作られて
います。
この技法は先般ご紹介したボッティチェリ展のフレスコ画と同じものです。
青緑色の鮮やかな色が印象的です。
これは石灰水が顔料を覆い、空気中の二酸化炭素と反応して透明な結晶になり、
顔料はこの結晶に閉じ込められて、美しさを保ち続けるのです。
この壁は数年前放映されたテレビ東京の「美の巨人たち」で、大津磨きと紹介
されていましたが、これは間違いです。
確かに大津磨きも光沢のある左官壁ですが、こちらの色は土自体に色がついて
おり、コテで圧力をかけるようにして鏡のような仕上げを作っているのです。
これは食堂の飾り棚置き場として設けられたアルコーブですが、これを
日本の床の間様としていました。
こちらは食堂の天井で、化粧梁組天井です。
梁の材が化粧材で覆われており、白い部分のすぐ上は2階床になっています。
これが「美の巨人たち」では日本の格天井としていました。
格天井とは格縁と呼ばれる格子状に組んだ材を梁から下げて作ったもので、
格子の中は鏡板と呼ばれる材がはめ込まれています。
ですので2階天井と1階天井の間には空洞が出来ることになります。
このような間違いが生じたのは、ベーリック•ホールを設計したJ.H.モーガン氏の
藤沢の自邸が焼失してしまったことに起因すると思われます。
モーガン氏の自邸は、日本と西洋が融合した個性的で、魅力に満ちた建物でした。
それが熱心な市民運動が実り、保存が決定した直後に焼失してしまったのです。
この建物を愛して止まない方達からすれば、残されたベーリック•ホールに日本の
テイストを見つけたいと思う気持ちは理解出来ます。
しかし建築様式に精通し厳格にその様式を実行したモーガン氏が、フィンランド
領事という肩書きを有していたベリック氏の邸宅に、個人の好みを混入させた
とは考えられません。
あくまでも当時最先端の流行であったスパニッシュ様式に徹したと思われます。
ベーリック•ホールは、「夫人寝室」の模様替えも行っています。
ゴールデンウィークには、西洋館は新緑に包まれて気持ちのよい散策コースに
なります。
新しくなったベーリック•ホールを是非見て頂きたいと思います。