月別アーカイブ: 2014年10月
根津美術館「名画を切り、名器を継ぐ」
現在根津美術館で行われている「名画を切り、名器を継ぐ」
という展覧会に出かけてきました。
この展覧会は現在私たちが目にしている古美術品が、将軍や茶人を
はじめとする所有者達によって改変や再生された点に注目し、
その作品の扱われ方、鑑賞のされ方の検証を試みたものです。
数多く名品が展示されていますが、私が特に注目したのが、名画では
佐竹本三十六歌仙絵です。
こちらは大正時代に売りに出されたものを、時の有力者が分割
所有したといういわれがあります。
絵画的には、後の姫君の描き方のお手本になった点が重要です。
華やかな女性歌人3人が揃って展示されるのは大変めずらしいそう
なので、もしご都合がつくならば展示期間の10月13日までにお出かけ下さい。
名器としては、まさに繕いがされた器が展示されています。
画像はポスターにも掲載されている大井戸茶碗 銘 須弥(別銘 十文字)
です。
これは古田織部がもともと大きかった茶碗を十文字に切り、径を小さくして
継いだと言われていますが、その他割れの接着あり、鎹止めあり、と
様々な修復がなされています。
器はこの他、赤楽茶碗 銘 乙御前、瀬戸筒茶碗 呼継、赤楽茶碗
銘 木守など、原一菜(いちな)先生の著書に取り上げられている器が
多数展示されています。
金繕いをなさる方には、是非見て頂きたい展覧会です。
自然のひおうぎ貝
先日「洗浄済み」のひおうぎ貝をお持ちになった方がおられました。
そのまますぐ製作にかかれるように、きれいに磨いてありました。
たまたま食用として売られていた貝を頂いたものが出てきたので、
画像をアップします。
表面にフジツボの類いがついています。
これは千枚通しなどで削り落として、ステンレスブラシ(ゴトクを掃除する物)
で擦ればきれいになります。
中も何やら得体の知れないものがついているので、千枚通しで
あらかた落としたあと、紙ヤスリでならせばよいと思います。
私自身ひおうぎ貝を食べたことはないのですが、ホタテのような味で
なかなか美味しいと聞きます。
もし召し上がる機会がありましたら、貝を取っておくのをお忘れなく。
傷なり?均一?
NHK文化センターユーカリが丘教室BクラスのIさんの
作品をご紹介致します。
先日貝合せの作品をご紹介した方です。
揃いのお皿の欠けを直したものです。
それぞれ違うところが欠けていますが、並べてみるとそれすらも
柄のひとつとして楽しめます。
左のお皿は試行錯誤の結果、このようなラインに落ち着いたそうです。
よくブログに書いておりますように、仕上げは好みでよいので、
これでなければならないという形はありません。
それでもよく質問があるのが傷なりか、均一線がいいかということです。
これも以前のブログに書いていますが、まずは傷なりに直してみる
ことをオススメします。
それが今一つと思われたら、Iさんのようにご自分の思う線に変えて
みてはいかがでしょうか?
エレガントな貝合せ
NHK文化センターユーカリが丘教室BクラスのIさんの
作品をご紹介致します。
Iさんはポーセリンアートをなさっているので、絵を描かれる
のはお手の物の方です。
ひおうぎ貝です。
繊細なタッチで、萩と桜を描いておられます。
もうひとつ、やはりひおうぎ貝なのですが、沖縄のおみやげ
なのだそうで、金具がついてケース仕立てになっている物に
描いて下さいました。
表は落ち着いたシックな感じです。
他にハマグリ貝にも絵付けをしておられるのですが、そちらは
同じクラスの方のみ拝見出来たということに致します。
講師としては教室で説明しました貝合せのセオリーに従って絵付けを
して下さったのが、とても嬉しかったです。
格の高い貝合せです。
セオリーをご存知の上で絵付けなさると、なお素晴らしい作品になる
というものです。
美しい線
一昨日春慶塗りの修復をご紹介させて頂いたNHK文化センター
ユーカリが丘教室のIさんの磁器を修復された作品をご紹介
致します。
両方とも人間が計画しては出来ない、自然の美しいラインです。
特にIさんは細い線を描くのがお上手なので、美しさがなお
際立っています。
現状では2枚とも金泥のみで線を描かれておられますが、染付けに
差し掛かっているところは、銀泥で直されるのをオススメして
います。
ところで細い線は、細い筆でのみ描けるとお考えになる方が多いと
思いますが、これは正解とは言いがたいところがあります。
もちろん力が入ってしまっても、ある程度の太さにしかならない
のは当然なのですが、修復においては大きな問題があります。
それは長い距離が描けないということです。
これは穂先が短いと顕著になります。
長い距離が描けないと当然筆継ぎが多くなり、美しい線が描けません。
仕上げにオススメしている筆は、毛自体の質の良さで穂先が利きます。
これによって太い線も細い線も1本で描き分けることが可能になり
ます。
道具を選ぶのも大切ですが、慣れて使いこなすこともお考え頂けたら
嬉しいです。